サイレントセールスブログ

「当たり前」という特殊能力

人間は基本的に二足歩行をする。

その際にとくに歩き方を考えることもない。

右足を前に出して全身を前に傾けて、
着地したら、今度は左足で地面を蹴って前に進む。
その際に、身体のバランスもとりながら、
倒れないようにする。

こんなものでは説明不足だ。

歩き方を正確にマニュアル化しようと思ったら、
とんでもなく複雑な表現になるだろう。

誰も歩くときに、こんな面倒なことを考えている人はいない。

ごく自然に、何も考えずに歩いている。

そういう意味では動物というのは、
無意識に難しいことをやっているものなのだ。

人はそれを「当たり前」と言う。

自転車の運転もそうだ。

最初のうちは理屈で覚えようとするが、
一度乗れるようになると
次からは自然に走れるようになる。

なぜそうなるかというと、
何かするたびにいちいち考えてから動いていては、
神経が疲れてしまうからだ。

そして何よりも行動が遅くなる。

歩いていて石につまずいて転びそうになったときに、

「このままでは転んでしまう。
反対の足を早めに前に出して転倒を防がなければ!

いやそれだと間に合わない。

右手を出して地面に頭が当たるのを守る方が先だ。

ただ、いま右手には荷物を持っている。

これを放り出すか、それとも左手に持ちかえるか。

いずれにしても転倒は避けられないだろう・・・」

こんなことを考えている間に転んでケガをしてしまう。

瞬間的に、無意識レベルで身体が勝手に動いて、
ケガを最低限に抑えようとするのが普通だ。

家のなかを歩くにしても、
実際には複雑で細かい判断をし続けている。

それらは当たり前のようにやっているが、
あらためて考えてみると、じつはものすごいことだったりする。

これは仕事にも言えることだ。

新入社員にとって、仕事のあいさつ言葉というのは、
馴染みがないものがある。

たとえば、「お疲れさまです」

朝、最初に会ったときは「おはようございます」だが、
2度目は、「お疲れさまです」になる。

私はこのセリフに違和感があった。

疲れているかどうかなんてわからないし、
何でもかんでも疲れているようなセリフでいいのか?

なんて思ったりしていた。

でも、数日経つと、私も当たり前のように使っていた。

そしてそのセリフの意味など考えることもなく、
挨拶言葉として使うようになった。

営業で売れている人を見てみよう。

売れているということは、
少なくともお客さまに「買う」と言ってもらえているということだ。

そこにはある程度以上の信頼関係ができている。

営業のコツは、
トークの上手さなどよりも、
この信頼関係をいかにして構築するかが大きい。

でも天才的に売れる人というのは、
この信頼を得る作業をほぼ無意識に行っている。

当人にとっては当たり前のことなのだ。

相手に会ったときの態度や第一声。

目の動き、相手の反応への自然な対応。

あまりにも自然にやっているので、
そのすごさは自分でもわかっていない。

でもそれこそが特殊能力なのだ。

以前、仕事仲間と話をしていたときのこと。

クライアントの役員の話題になった。

「あの人、なんだか偉そうで感じ悪いよね」

「そうそう、いきなり割り込んできて引っ掻き回して行って」

「現場を知らないくせに口だけ出したいんだよなあ」

「あんな人だとは知らなかったよ」

そんなやり取りがあった。

じつは私は最初に会ったときから、
あの人は要注意だなと思っていた。

そのことを言うと、

「えっ、なんでわかったの?」

と不思議そうに聞かれた。

「なんで、って言われても見ればわかるじゃん」

と返事をしながら私は自問していた。

なんで、わかったんだろう???

そう、自分のなかで答えがわからなかったのだ。

逆に、なんでみんなはわからないのかが不思議だった。

その意味では、当時の私は特殊能力を持っていたのかもしれない。

営業は、自身の能力のおかげで成績を出せている人は多い。

しかしその能力の多くは自覚できていなかったりする。

自覚していないから人に伝えられない。

トップセールスに売れる秘訣を聞いても
なかなか納得できる答えが出て来ないのはそういう理由だ。

当人もべつに隠しているわけではない。