実家に帰って自分の部屋だったところに行ってみると、
昔のままの本棚が置いてある。
その本を見ると、
かつての自分が何に興味を持っていたのかがわかる。
案外多いのが、心理系の本だ。
著名な心理学者のものや、
もっとライトな「〇〇の心理学」的なものまで。
実際に私は恐かった。
人が何を考えているのかわからないということが。
怒っているのか? 不快なのか?
自分のことをどう思っているのか?
目の前の人が自分に対してどんな感情を持っているのかが、
いつもわからなかった。
だから、こちらから声をかけられない。
いま何か言ったら気を悪くしないだろうか。
忙しそうにしているから話しかけるのは後にしよう。
自分のことを避けているみたいな感じがする。
そんな妄想的な思考をいつも持っていた。
人に対して極度に敏感だったのだ。
そして敏感だったからこそ、
恐くて触れられない。
触れずにいれば問題は起こらない。
その結果、
いつもひとりでいることになる。
私の性格は、
他人の心理がわからないところからきているのかもしれない。
そんな状態は、社会人になってからも続いた。
営業として客先に行くのが恐かった。
とくに、営業マンとお客さまというのは、
利害関係も絡んでくるので、余計に本音が見えにくい。
相手が何を考えているのかがわからないのだ。
それでは仕事にもならない。
そこで、心理学の本を読むようになったのだろう。
(あまり当時の経緯は憶えていない)
相手の心理を読むことができたら、
仕事も生活も楽になる。
そう思い込んでいた。
でも正直言って、いくら本を読んだところで、
目の前の人の心理状況など正確にわかるわけがない。
正確にわからない状態で接すれば、
どこかでミスをするだろう。
相手の意に反したことを言ってしまいそうだ。
それが致命的なミスだったら、
営業成果につながらない。
それもまた恐い。
学問としての心理学は、
大まかな方向性はわかるかもしれないが、
個人の心理の奥底まではわからない。
ではどうするか?
あとは勘に頼るのか?
そこで私は考えた。
そもそも人付き合いの経験値が極端に劣る自分が、
どんなに勉強したところで人の心理が完全に見通せるわけがない。
だとしたら、
人の心を読もうとするのはムダじゃないか!?
心を読まずに正確に相手の心の中を知る方法。
それは、もう相手に本音を言ってもらうしかないだろう。
言ってもらえれば、あれこれこちらで憶測する必要もない。
では、どうすれば言ってもらうことができるのか。
営業マンに対しては格別に本音を言わないお客さまが、
どんなときに本音を言うのか?
私はそちらにシフトしたのだ。
相手の心理を読む努力よりも、
相手に本音を言ってもらう努力に切り替えた。
すると、お客さまの心理状況の流れが見えてきたのだ。
最初のうちは、
お客さまは営業マンに対してかなり警戒している。
決して本音を漏らすまいと身構えている。
そんな状態では、どんなに本音を言わせようとしてもムダだ。
なので、まずはその警戒心を解くことから始める必要がある。
それこそが、アイスブレイクだったのだ。
そこで初めてアイスブレイクの意味が理解できた。
場を盛り上げたり、面白い話をするのではなく、
相手の警戒心を解くためのもの。
あくまでも相手主体の行動だったのだ。
そうして安心してもらったうえで聞かなければ、
本音は出てこない。
では、どういう聞き方がいいのか?
本音で話してくれやすい聞き方は何か?
その疑問が「3つの質問」に行きつく。
私が普段セミナーなどで話している内容のほとんどが、
もともとは相手の心理がわからない不安からスタートしているのだ。
私がいまメインで伝えている4ステップという営業スタイルは、
このような思考で作られている。
いわば臆病な気持ちが原点になっていた。
お客さまの心理を読むための唯一の方法とは、
お客さまに本音で語ってもらうようにすることである。
次回はそんなお客さまの心理の動きについて話していきたい。