以前、「しゃべらない営業の技術」という本を出したことがある。
新書版だったが、そこそこ売れて、何度が重版になった。
いまでも電子版が売れているようだ。
ただ、いかんせん内容が古くなっていて、
(もちろん、いま読んでも十分に通用するのだが)
私としても、新しく書き直したいと思っていた。
近年セミナーや研修などで行っているものをベースに、
新しく企画書を作って、いま出版社にアプローチをしているところだ。
これができると、これまでの集大成的なものになる。
やはり私の特徴としては、
一番に来るのが内向型だ。
しゃべらない営業というのも、その部類に入る。
このようなネガティブワードとの相性がいい気がしている。
そこで、このしゃべらない営業とはどんなものかを、
もう一度整理することも含めて、
このメルマガでお話ししていこうと考えた。
まず、しゃべらないで本当に売れるのか?
全然しゃべらないということか?
そんな疑問がよく出てくる。
出版社に企画を持ち込んだときも、
まず、それを聞かれた。
もちろん、まったくしゃべらないわけではない。
黙ったままで表情やジェスチャーで売ろうというものでもない。
営業を見ていて常々思うのは、
余計なことをしゃべり過ぎて自らの墓穴を掘っている、
そんなシーンをよく見るからだ。
あんなこと言わなければいいのに!
その一言が余計だったのに!
それを言わなければ売れたのになあ~
営業はしゃべってナンボだと思われているきらいがある。
しゃべりが上手なほど売れるし、
沈黙は営業マン自らが避けるようにしなければならないと、
そう思われているフシもある。
実際に、セミナーなどで参加者に、
「やっぱり客先で沈黙になるのは恐いですか?」
と聞くと、多くの人がうなずいている。
会話をしているときに沈黙してしまうと、
それは営業マンの落ち度だと感じているようだ。
ダメな営業マンだと思われないためにも、
常にしゃべっていられるようにしたいという気持ち。
そう思うのは私も理解はできる。
営業初心者のころは、
私もずっとそう思っていたからだ。
とくに、私の先輩は、しゃべりが上手かった。
そしてお客さまからも気に入られていて、
「うちの娘を嫁にもらってくれ」とか、
「うちの会社に来ないか」など、
真剣に誘われているのを何度も見たことがあった。
もちろん売り上げもすごかった。
お客さまとの飲み会でも、
中心になって笑いを取る。
相手の上司をいじったり、
しゃべってない人に目を向けたり、
気配りもできていた。
私もかなり可愛がってもらっていた。
社内では、上司や社長にまで
自分の意見を主張を通すこともあった。
そんな営業マンの鏡のような人を、
目の前で見てきたのだ。
自分もあんな風にうまくしゃべれたらなあと、
いつも思っていた。
私の頭のなかはいつも「しゃべる」ことばかり。
落語のテープを聞いてみたり、
雑学の本を読んだりもした。
でも、もともとクラスで一番の口下手だった人間が、
そう簡単に人並みになれるはずがない。
あるときも、
しゃべりが面白い人というのは、
たとえ話がうまいんじゃないかと思い立った。
いまテレビでよく見る
MCの上田さんとか後藤さんなどは、
絶妙なたとえ話で盛り上げている。
かつて私も、
何かたとえて話すように心がけていた時期があった。
あるとき、社内の〇〇さんと××さんは仲が悪いという話が出たときに、
私はそのとき読んでいた本からたとえ話をした。
「まるでユダヤ人とパレスチナ人みたいですね」
それを聞いていた上司はあきれた顔をしながら、
「渡瀬君は変わったたとえをするね~」と言った。
わかりにくいたとえ話というのは、逆に評価を下げるものだった。
そうした失敗も数多くしながら、
それでも私は「営業はうまくしゃべれたほうがいい」と思っていた。
しかし、本当はそうではなかったのだ。
つづく