サイレントセールスブログ

しゃべらない営業のススメ(3)

営業マンはついついしゃべって伝えることを優先しようとする。

だから、トークを憶えたりしゃべり方を磨いたりする。

社内でのロープレも、
もっぱら上手にしゃべれるかどうかを検証していることが多い。

私もそうだったが、
しゃべる練習を繰り返していると、
どうしても意識が自分に向いてしまう。

うまくしゃべれるだろうか?

間違えないで話せるだろうか?

このように、自分のやることに意識のベクトルが向いている。

それはそれでいいのだが、
あまりに自分にばかり向いてしまうと、
どうしても他のことが疎かになってしまう。

とくにお客さまである相手への意識が薄くなる。

それが続くと、
相手の気持ちなどお構いなく自分勝手に振舞う営業マンになってしまうのだ。

もちろん営業マン自身はそうなろうとは思っていない。

一生懸命にやっている。

しかし、結果的にお客さまから見て、
「この営業マンは自分のことしか考えてないな」と思われてしまうことが多い。

とても残念なことだ。

自分のしゃべりや振る舞いに固執しないようになると、
自然に相手に意識が向いてくる。

自分がしゃべるのではなく、相手にしゃべってもらうことを考えれば、
当然ながらベクトルは相手に向く。

先日私が出演したマツコの知らない世界の収録のときも、
それをものすごく感じていた。

マツコさんは、私の言葉や表情、動きなどを
全身の神経をフル活用して見ていた。

もともと観察力の高い人なのかもしれないが、
ちょっとしたしぐさにもすぐに反応していたのには、
驚かされた。

番組を進行するツールとしてボードが用意されていて、
テープで文字が目隠しされている。

それを私が手でめくって解説するという段取りになっていた。

スタッフとの打ち合わせのときにそのめくるときの手を、
左手でやろうということになった。

左利きがテーマなので、
利き手を使ってめくろうと。

その動きが窮屈に見えるのもひとつの演出として
やることにしたのだ。

スタッフ間ではかなりウケていた。

(それはマツコさんは知らない)

で、本番が始まって最初のうちは左手を使ってめくっていた。
実際にやりにくいので、はがすときにマゴマゴしていた。

スタッフはクスクス笑っている。

しかしその様子を見ていたマツコさんは、
あえて反応しなかった。

おそらく

「姑息な演出をしているな」

「その程度じゃ私は突っ込まないわよ」

という心理だったと想像する。

なので私も、あえてスルーしていた。

ところが最後のほうになると、
私もうっかり忘れて、
右手でボードをめくろうとしてしまった瞬間がある。

それをマツコさんは見逃さなかった。

「ちょっと、いま、右手でめくろうとしたでしょ!」

私の小さな仕草にすかさず反応して見せたのだ。

それがうまく笑いにつながる。

私は、内心、さすがだなあと思いながら、

「いえいえ、そんなことないですよ」

としらばっくれて、左手でめくった。

万事がそんな感じだったのだ。

放映されていない部分でも、
私がボソッと言った言葉にもすぐに反応していた。

全身で、私のことを観察しているのがわかる。

で、それってそんなにイヤな気もしないのだ。

私に対して関心を持ってくれて、
どんな細かいことでも絡もうとしている。

そんな姿に好感を持った。

マツコさんは自分の話で場を盛り上げようとはしていない。

あくまでもゲストを主体にした笑いを意識していたのだ。

営業マンもお客さまに対してこうあるべきである。

かなり前の話だが、
私が新人営業マンの頃に先輩に連れられて
お客さまと打ち合わせに行ったときのこと。

当然ながらお客さまは先輩とばかり話している。

隣に黙って座っている私など眼中にない。

その二人のやりとりを見ながら、
私はあることに気づいていた。

そして、会話が一段落して、
ふっと間が空いたときに、
お客さまに対してこう言ったのだ。

「あの、もしかしたら歯が痛いじゃないですか?」

いきなり関係ない話を切り出した私に、
先輩は、何を言い出すんだコイツは、という表情だった。

ところが、そのお客さまは、

「そうなんだよ、朝からずっと痛かったんだ」

と言って、私のほうに向き直って話をし始めた。

私は、話しながら何度が手で口元を押さえていた仕草を見て、
感じたことを言ったのだった。

そのあと、そのお客さまは、
私と先輩を均等に見ながら話をするようになった。

おそらくだが、
その場で私が何かを説明しなければいけない立場だったとしたら、
そんな相手の小さな動きなど目に入らなかったことだろう。

さらには、先輩と会話をしているお客さまを、
他人事のように見ていても、気づかなかったに違いない。

そのときの私は、
なんとか自分にも目を向けて欲しかったのだ。

何の役にも立たない新人が黙って座っているだけだと
思われたくなかったのである。

なにか話しかけるきっかけを探していた。

そのために相手の言葉や仕草を観察することになり、
結果として、歯が痛そうだと気づいたのである。

たったそれだけのことなのだが、
その後は、お客さまとの関係も良好になり、
仕事もスムーズに回せるようになった。

相手にベクトルを向けること。

それが営業にとってとても大事なことだと気づかされた出来事だった。

つづく