私はもともと営業が嫌いだった。
嫌いというよりも、
自分とは縁のないジャンルだと思っていた。
なので、ことさらに勉強しようとか、
興味関心を持つことなど全くなかった。
しかたなく営業職になって、
しかたなく営業していたときも、
これは本来の自分の仕事じゃないと思い、
どこか他人事のような感覚でいたものだ。
目の前の仕事に集中することもなく、
かといって、何がやりたいわけでもない。
いつも気持ちがふわふわしていた。
そんな中途半端な状態をしばらくダラダラと続けていたのである。
当然ながら、充実感もない。
いつも不安な気持ちを抱えながら時間が過ぎていった。
仕事はやりたくない。
でもサボっていても堕落してしまいそうだ。
そこで考えたのが、資格を取ることだった。
何かの資格があれば、
この不安が少しでも消えるかもしれないと思ったのだ。
ただ、そもそもやりたいことや目的がなかったので、
資格といってもすぐには思いつかない。
で、決めたのが運転免許。
なんかこう大きなクルマを運転したいと思い立ち、
大型自動車免許を取ることにしたのだ。
免許なら一度取れば無くならないし、
もしかしたら役に立つときが来るかもしれない。
その程度の決断だった。
営業の合間に(つまりさぼって)教習所に通いはじめた。
じつはこれは、とても楽しい時間だった。
なにか自分で前向きなことをやっているという気持ちからか、
生活に張りが出たのだ。
これまで何をやるにしても、
自主性がなく、やらされている感が強かった私にとって、
自分で決めて自分で行動しているというのも、
新鮮だったのだろう。
ただし充実していたのは通っている間だけだった。
免許を取ってしまうと、
またもとの生活に戻っていた。
大型自動車を運転する機会など、
普段の生活の中ではほとんどない。
(引っ越しのときにレンタカーでトラックを借りたときくらいだ)
免許や資格は、
持っていれば将来何かの役に立つかもしれないが、
明確な目的も無しに取っても、
実際には使えないことが多いようだ。
そんなダラけた営業生活に嫌気がさして、
会社を辞めた。
とにかく辞めたかったので、
次の就職も何も考えていなかった。
(いま思えば、なんて無計画で行き当たりばったりだったんだ!)
しばらくは実家でゴロゴロしていた。
で、2週間ぐらい経ったころ、
そろそろ働き始めなくちゃと思い、
就職情報誌を買ってきた。
いろんな会社が載っていたが、
どれもピンとこない。
その頃もまだ自分のやりたいことなどが、
見えていなかった。
そんな視線で雑誌を眺めていても、
ピンとくるはずがなかったのだ。
そこで改めて考えた。
自分は何がやりたいのかを。
自分には何ができるのだろうか?
将来どうすべきか?
今さらながらそんなことを自問してみた。
これまで経験してきたのは営業のみ。
しかもその営業はやりたくないときている。
ここが決断のポイントだった。
考えたあげくに出した答えは、
「いますぐに決めなくてもいい」だった。
決めるべき要素もないのに、
むりやり決めてもしょうがないと思ったのだ。
そのうえでどうするか?
私は「営業に決着をつけよう」と考えた。
本当に自分は営業に向かないのか?
それまでの4年半の営業経験のなかで、
何度かは、お客さまから認められて、
売れるうれしさを味わったこともあった。
売れるときもあれば、
売れないときもあった。
それが自分の実力なのか、マグレなのかはわからない。
でも、もし実力が少しでもあったのなら、
営業という仕事を辞めてしまうにはもったいないかなと思ったのだ。
そこで、自分の営業力に白黒つけることにしたのである。
それこそがリクルートに入った理由だ。
ここで全力で営業してみて、
自分が通用するかどうかを確かめてみる。
そしてダメだったら、営業以外の職を見つける。
その意味では、初めて営業と正面から向き合うことになったのだ。
ところが、いきなり挫折した。
つづく。