サイレントセールスブログ

営業が人生の不安を消してくれる(4)

前回の続きから

なにをやっても長続きしない。

親に強制的に入れさせられたボーイスカウトのキャンプでも、
みんなはキャンプファイアーを囲んで楽しくしているのに、
私だけ夕食のカレーものどを通らずに、
テントの中で寝袋に入って泣いていた。

いわゆるホームシックだ。

そんな感じで子供の頃から人と群れたくない。

いや、群れられない体質だった私。

大人になってもそれが変わらないとしたら、
(私の持論では、人の性格は生まれつき変わらない)

だとしたら、自分には会社勤めはできないのか?

こんなに人づきあいが苦手で、
引っ込み思案で、内気な自分が、
仕事も満足にできないとなると、
もう人生に絶望するしかない。

しかし、同時にそこに救いの手が差し伸べられたのだ。

リクルートでは、当時、いろんな外部の人が出入りしていた。

カメラマン、デザイナー、ライター、イラストレーターなどだ。

慣れた人だと、もう普通に出社してくる感じで、
社員となんら違和感なく仕事をしている。

そしてそのほとんどがフリーランスだった。

もし私が絶望的な気持ちでいるときに、
そのようなフリーで仕事をしている人の存在を知らなかったら、
いまの自分はたぶん無かっただろう。

そもそも、引っ込み思案の自分が、
独立して仕事をしようなどとは考えたこともないし、
自分とは無縁の存在だと思っていたのだ。

ところが、まわりにそんな人がたくさんいると、
何となく自分でもできそうに思えてきた。

自分は会社勤めには向いてないとわかったときに、
彼らの存在にあらためて目を向けたのである。

それからは、一緒に取材や撮影について行き、
移動中にガッツリと話を聞くようにした。

収入はどれくらい?
生きていけるのか?
どうやって仕事を取ってくるの?
どうすればフリーになれるの?
どこで技術を学んだの?

など、ちょっとでも気になることがあれば、すぐに質問した。
(そのときの私は、かなり積極的だったと思う)

そうして、私の人生の目標ができたのだ。

そう、フリーランスになること。

内向型の性格なのに、よくそんな勇気があったね。

と言われることが多いが、そんなときはこう答えている。

「だって会社に勤められないとしたら選択肢はひとつしかないから」

そう、もう選んだり迷ったり悩んだりする余地もない一択だったのだ。

そんなわけで、
我ながら驚くくらいあっさりとフリーの道に進むことを決めた。

あとは、何をやるかだ。

初期投資が少ない職業は何かと考えて、
コピーライターになることにした。

極端な話、紙とペンがあれば仕事ができる。

当然ながら未経験の職業だったが、
身近に見本となる人がたくさんいたので、
それほどの不安もなかった。

また、求人広告を作るときに、
ライターの手配がつかないこともあり、
そのときは私が書いていたこともあったのだ。

それと、中学生のときに弁論大会用の作文が、
あと一歩でクラス代表に選ばれるところまでいったり、
高校生のときの作文が3回連続でみんなの前で読まれたりして、
なんとなく文章には少しだけ自信があったりもした。

まあ、真剣に勉強すれば、
ある程度の水準くらいにはなれるだろう。

そのとき気付いていなかったが、
営業で成績を残せたということが、
潜在的な自信につながっていたのだと思う。

その後、知人のデザインオフィスで見習いをしながら勉強をして、
独立するまでに至ったのである。

独立してみて気がついたのだが、
フリーで生きていくためには、
独自性や技術力はもちろんのことだが、
営業力が大事だとあらためて感じた。

まだ、駆け出しの私にどうして仕事をくれたかというと、
おそらくだが、仕事のやり取りがしやすかったのだと思う。

そしていま思い出してみると、
いつも注文をくれたのは、
営業マンからだった。

広告代理店などの営業マンが、
社内の制作部門を通さずに、
外部の私に直接注文してくるケースが多かったのだ。

そういえば、
リクルートで制作をやっていたときも、
(私はリクルートに2回入いっている。2回目は制作として)
営業マンは私のところによく相談に来ていた。

もともと営業をやっていたので、
お客さまとのやりとりも私一人に任せられるし、
営業の苦労もわかっていたから、頼みやすかったのだろう。

とくに、締め切りギリギリになって注文を取ってくると、
たいていは制作から断られてしまうのだが、
こっそり私のところへ持ってきて、頼み込まれることも多かった。

せっかく取った注文だから、
なんとかしてやりたいと思ってしまうのだ。

だから、結構徹夜していた。

そんな感じで、仕事が回ってきたのだった。

営業はもうやめたと思っていたが、
意外に経験が役立っていると感じた。

他社とのコンペのときのプレゼンもそうだ。

クライアントの求めているところや、
落としどころなども、
きちんとヒアリングできていたので、
外さないのである。

広告のカンプ(できあがり見本)を持って行くときも、
1案は先方の要望に沿ったものを見せて、
2案目はそのアレンジ型を見せ、
そして、

「じつはちょっと遊びで作ってみたんですが」

などと言いながら、3案目を見せると、
相手の想定外のその案が、意外と採用になったりもする。

そんなところも、営業時代に覚えたものだった。

実際の営業マン時代は、
イヤな思いばかりしていた営業という仕事が、
じつはとっても役に立っていたのである。

もう少しだけつづく。