サイレントセールスブログ

嫌いなものを売る

かつて私が就活していたとき。

会社の良し悪しなんて学生にはわからない。

だから私は好きなものを扱っている会社にアプローチしていた。

まずヤマハ。

持っていたバイクとギターとテニスラケットが
ヤマハ製だったという理由だ。

そのながれでカワイ楽器。

これは吉田拓郎がかつて就職していた会社だから。
(たしかそうだったような)

楽器つながりで楽器の販売店などもチェックした。

あと、本が好きだったので、
出版社も当たろうとしたが、かなりハードルが高くて断念。

まあ職探しの流れとしては悪くないと今でも思う。

営業職になるにしても、
自分が好きな商品のほうが売りやすいだろうし。

ところが、

実際に就職したのは、縁もなじみもない、
精密測定器を扱うメーカーだった。

私としても会社に対する思い入れもなにもない状態。

ただ、とりあえず就職を決めたかったのと、
一応上場企業だったので親も安心するかなと。

あとは神奈川県に拠点があったことくらい。

しかし仕事をはじめてわかったのは、
その商品が欠陥だらけだったということ。

とにかくクレームが多い商品だった。

後発で新規参入でその業界では無名の会社。

なので私たちの売り文句は、

「既存の商品をじっくりと研究して参入してきましたし、

それなりの自信があります。

なんと言ってもメイドインジャパンですから安心してください」

こんな感じだった。

しかし、ふたを開けてみたら問題だらけ。

売るほどにクレーム対応に振り回されていた。

信頼できない測定器は致命傷である。

営業としてはとても売りにくいものだった。

そもそも商品自体になじみもなければ好きでもない。

いやむしろ嫌いになっていた。

仲のいい販売店の人には、

他社商品のほうがいいよとすすめることもあった。

ちょうどそのタイミングで社内でゴタゴタがあり、
私は会社を辞めた。

その事業は数年後に撤退し、
会社自体も他社に吸収されて無くなったと聞く。

好きなことを仕事にするというのは、
世間でよく言われたりもする。

それが健全なことなのかもしれない。

ただ、好きだと思っていたことのなかに、
どっぷり入っていくと、
裏の面も見えたりして、幻滅することだってある。

反対に、嫌いだと思っていたことが、
やってみると案外自分に合っていたなんてもこともある。

だから正直言ってわからない。

いまの私だって、
あれほど人前に立つことを避けて生きてきたのに、
それをやっている。

しかもやってみると案外イヤでもなかったことに気づく。

仕事ってそんなものかもしれない。

そう考えると、好きとか嫌いとか関係ない。

それよりも、どんなものでも売れる技術を持てばいい。

嫌いな商品をどう売るか?
(やっと本題)

たとえば私がヤマハのバイクの愛好家で、
でも別の嫌いなメーカーのバイクを売るとしたらどうする?

無理に会社の商品に合わせようとすることはない。

好きなものは好きだし、
嫌いなものを強引に好きとは言えない。

思い込もうとしても無理が出る。

嫌いなことは嫌いと言うべきである。

「私はヤマハのバイクが好きで、ずっとヤマハ党です。
なによりデザインが好きなんですよね。

その点でいうと、私が売っているこのバイクは、
デザインが嫌いなんです」

こんなセリフをお客さまの前で言っていいのだ。

で、ここからが重要。

「私は嫌いなんですけど、
世の中にはこれが好きっていう人もいるんですよね。

まあ確かに独特の存在感はあります。

人と違うものを選びたいという方には魅力なんでしょう」

自分にも好みがあるように、
他人にも独自の好みがある。

だから好きだという人に向けて売ればいい。

そのときに、好きだという人にきちんとヒアリングをして、
どこが好きなのかをきちんと知っておくこと。

それこそが商品の価値であり、
ターゲットもそこに置くべきなのだ。

バイクメーカーはたくさんある。

そしてそれぞれが長年存在してきている。

ということは、売れているということだ。

自分が嫌いなメーカーのものもきちんと売れている。

それは自分と好みが合う人にではなく、
まったく違うジャンルの人にだ。

それが当たり前である。

嫌いな商品でも、
それを好きだと思っている人に向けて売ればいい。
単純なことだ。

さらに言うと、
自分の商品を嫌いだと言って売っている営業マンは、
信頼度が高い。

正直な人だと思われるからだ。

言葉の説得力もあがる。

それはひとつの武器にもなる。

かつて私が自社の測定器よりも他社のをすすめたとき、

それでも私から買うことが何度もあった。

当時は、何でわかってくれないんだろうと思っていたが、
それは、信頼度をあげていたからだったのだ。

もしあなたがいま、
自分の商品が嫌いだとしたら、
逆にチャンスかもしれない。

自分の気持ちに素直になってみよう。

それをお客さまの前で言ってみよう。

きっと、あなたを受け入れてくれるはず。