営業と価格は切り離せない関係だ。
商品の良さを伝えるのとは別作業として、
価格交渉という仕事もある。
私も営業マン時代は当たり前のようにやっていた。
うまくいった(定価で売れた)ときもあれば、
ギリギリまで値引きしたこともあった。
私がリクルートで初めて大きな受注をしたとき。
広告のサイズによって値段が違うのだが、
私は大きなページを受注することにこだわっていて、
かなり強引に売ってしまった。
いま思い出しても恥ずかしい。
そのときの私は、
「さすがだね~!」と上司や仲間にほめられることがゴールだった。
だから、小さなサイズの広告なら簡単に売れたところを、
無理に大きな広告で押したのだ。
当然、お客さまは断る。
そこで私は値引きをする。
それでも断られる。
さらに私は値引きをする。
そんな感じで、注文をとってしまった。
後日、それがクレームとなって返ってくることになる。
結局、その求人広告に応募がなかったのだ。
効果ゼロ。
無理やり売りつけられたうえに、
何の効果もなかったら、
それは怒って当たり前だ。
金は払えないよ、と言われてしまった。
最後は上司をつれて謝りに行き、
さらなる値引きをして、なんとか収めた。
私としても苦い教訓になった。
自動車販売業界のように、
値引きするのが当たり前の世界もある。
お客さまもわかっていて、
「で、いくらになるの?」
と価格表を見て言ってくる。
販売員も、当然のように値引きに応じる。
いかに値引き額を抑えるかが優秀な営業マンなのか?
それが本来の営業の仕事なのか?
私は疑問になる。
じゃあ定価って何なのか。
単なる見せかけの金額なのか。
そうじゃないはずだ、本来は。
原価や販売手数料や販促費などを加味して、
利益と相場を見比べながら決められたものだろう。
商品やサービスの内容が決まっているのに、
なぜ金額だけすぐに変わってしまうのか。
もっと言うと、
価格交渉すること自体、営業側には不利になる。
なぜなら値下げするしかないからだ。
定価より高い値段で買おうとする人はいない。
だからお客さまとの交渉は、必ず値下げが前提となる。
交渉するほどに、利益は減っていく。
そう考えると、優秀な営業マンとは、
そもそも値段の交渉をされずに売る人のことである。
もちろん営業だから値段の話はする。
でもそれは値引き交渉に応じるのではなく、
定価をきちんと伝えることだ。
「負けてよ」と言われても応じない。
もっというと、「負けてよ」と言われないようにすること。
それは営業マンの気持ち次第だ。
学生の頃、映画館の売店でアルバイトをやったことがある。
男の子がチョコレートを買いにきた。
私は「300円です」と言った。
するとその子は少し困った顔をしていたが、
私はもう一度「300円になります」と言って、
手を出した。
その子は300円を払ってチョコを買っていった。
私としてはとくに気にも留めていなかったが、
そのあとでふと正面からショーケースをみたとき愕然とした。
なんと定価が200円と書いてあったのだ。
勘違いをしていて高い値段で売ってしまったのである。
その男の子には本当に申し訳ないと思う。
でもそのときの私は300円が当たり前だと思っていた。
だから堂々と売っていた。
その私の態度を見て、
その子は、
「これは値札が間違っているのかも?」
と思ったのかもしれない。
もちろん気が弱くて言い返せなかった可能性もある。
この例は、
私がある意味でだまして売ってしまったものなので、
その部分は割り引いて聞いてほしいのだが、
営業としての大事な部分が見える。
営業マンはもっと定価に自信を持つべきだ!
そして定価売ることを当たり前だと思うべきなのである。
まず、それが大前提。
でもお客さまが「値引きしてよ」と言ってきたらどうするの?
そんな声が聞こえてきそうだ。
かたくなに「値引きできません」と突っぱねても、
ギクシャクしてしまう。
ここでよくやりがちなのは、
定価の正当な理由を伝えることだ。
「この商品は、原料が高くて手間もかかっている」
こんな感じで高い理由を説明してしまう。
でもこれを聞かされたお客さまは
「なるほど、だから高いのね」
としか思わない。
お客さまの感覚としたら「高い」ままなのである。
高いと思っているから定価で買いたくない。
だから「負けてよ」に戻ってしまう。
営業マンがやるべきことは、ひとつだけ。
「この商品は安い!」
ということをいかにして理解してもらうかである。
次回につづく。